山の匂い

このままじゃどうしようもない…という無力感に覆われ、何かに押しつぶされそうで、それを必死に払いのけようとする時、そんな自分のずっとずっと奥底にほんの僅かながら煙が出始めているような感覚がある。
それは、火起こし棒を擦って火種をつくる時に似て、煙が出始めたこの瞬間からのほんのしばらくが最も辛く、でも火を起こすためには最も大切な瞬間であることに似ている気がする。
もう少し、もう少しだけ我慢すれば煙の根元に火種ができる。
そうしたら、火が産むことができる。


“今”そして“ここ”は間違いなく大切だけれど、今・ここに何を感じ、そして何処に向かうのかを想像することはそれよりも、もっとずっと大切だ。
かつての私たちが今・ここを生きながら、向かおうとしていたその場所に、今、私たちは立っているのだろうか。

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もう何回目になっただろうか。縁があったら長野に移り住もうと思う…という友人の暮らす場所を探しに山に向かった。
彼らはもちろん、彼らにつきあいながら一緒に場所を探している自分も、“今・ここ” を見つめながら…でも、そこに見ようとしている風景は、自分たちが向かおうとしているその先にある風景。
かつて先人達が、目の前に広がる森をわたる風を感じながら、木々をみつめながら、鳥たち行方を目で追いながら、自分たちが向かおうとしている未来を想像していたように。
生きる場所を決めるということはこういうことなのだろうと思う。
今ここに吹く風を肌で感じながら。初夏を感じながらこの場所の冬を、そしてそこに暮らす自分を想像する。


町の暮らしは快適だ。
あの頃と比べれば歩く人の数は少ないけれど、同級生のあの娘が暮らしていた家は無くなって、幅の広い道ができて、自動車の数は随分と減った気もする。あの頃、遠くの山の見晴らしはこんなに良かっただろうか。…空はこんなに広かっただろうか。
町はあの頃よりずっときれいになったような気がする。
でも、何か違う。


町の暮らしは快適だ。
今日の風向きはどっち、
今日の風は山の匂いがする。


小池マサヒサ 記

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by cafe_mazekoze | 2011-06-06 10:34 | RIKI-TRIBAL | Comments(0)
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